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Wharton MBA 記  ~Carpe diem - 今を生きる~

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2009年 04月 16日

人才流入

人材外流(レンツァイワイリウ)。“人材の国外への流出”を意味する中国語。これは最近中国語のクラスに登場してきた生词(新しい単語)だ。テキストによると、現在中国では優秀な人材が留学などを通し、国外へ流出していることが国内の人材の競争力低下を招き、結果的として国家的問題となっているという。中国政府は人材の流出を防ぐべく、国民の留学に規制を設けるべきか否かを国家戦略的に考慮せざるを得ない状態というのが教科書の主な話だ。テキストが古いため、この話自体は決して真新しい話ではない。だが、今でもこうした“人材外流”の潮流は加速しており、中国人留学生の数は統計的に増加の一途をたどっている。このことは、決して中国特有の現象ではない。いわんや、日本も同じような境遇にある。技術者、芸術家、スポーツ選手などの優秀な人材は、様々な規制、様々なしがらみが跋扈する日本を離れ、皆新たな土地を目指す。その行く先はアメリカだ。

サブプライムを発端とした世界的なクライシスが、アメリカ経済の秩序を大きく乱したことは記憶に新しい。その炎は一見すると鎮火に向かいつつあるように思えるも、一歩先は闇。いつなんどきback-draft(炎の逆流)が起こるかは、正直予測は極めて難しい。アメリカ政府は経済に再び炎を灯すべく前代見門の財政政策に奔走。倒産寸前の企業への救済処置も歴史的水準に達した。新しい政権が生まれ、未来の光に期待が集まるも、こんにち多くのアメリカ国民がかつてない生活の不安に襲われていることは紛れもない事実。現実として失業率も大幅に増加した。そんな現実を目にし、アメリカ型新自由主義の崩壊を謳う経済学者は後を絶たない。

だが、賭けてもいい。きっとアメリカという国は、今後も世界をリードし続ける国であるに違いない。貧富の差の拡大、失業率の上昇、ヘルスケアの問題等、アメリカに内在する問題は枚挙にいとまがない事は事実だが、それでもアメリカは21世紀をリードする大国であり続けるだろう。なぜならばアメリカには決定的な強みが存在するからだ。それは“教育”だ。

下記をご覧いただこう。
世界大学ランキング
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MBAランキング
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上記を見て明らかなように、アメリカの教育は世界の最先端を歩いている。世界の最高レベルの教育機関はほとんどがアメリカに集まっている。言わずもがな、学生たちは世界各国から最先端、最高レベルの教育機関を目指しアメリカに集まってくる。世界のブレインが米国に集まっているのは紛れもない事実なのだ。かくして、世界から集結した学生たちは、優秀であればあるほど、米国に残る可能性が高い。優秀な学生たちは、皆卒業後、米国の企業や研究機関に就職してゆく。数年たてばグリーンカード(永住権)、更には市民権も与えられる。優秀な人間はやがてアメリカ人になる。アメリカは、そうやってこんにちまで成長してきた超多国籍国家なのだ。

アメリカは、法律面や資金獲得の面で、能力のある人間が起業しやすい環境であることは周知の事実。ロシアからきた若者がスタンフォードの博士課程を休学してGoogleを立ち上げたのは一つの象徴的な例と言えよう。世界から集まった能力ある人間たちが激しい競争を繰り広げる国アメリカ。結果的にその競争は更なるレベルの向上を実現する。そしてそのレベルの上昇は、また世界の多くの人間を魅了する。この好循環がアメリカに存在する限り、アメリカは大国アメリカであり続ける。

ここで一つ、我がWharton Schoolの学生にフォーカスを当ててみたい。実のところ、Whartonの学生にはアジア系の学生が多い(正確なデータが手元にないためこれはあくまで僕の経験と主観)。アジアから来た留学生はもちろんこと、アメリカで生まれ、アメリカの国籍を持ちながらも、身体はアジア人という学生が多く存在する。アメリカの人口が3億人で、その中でアジア系の人口が1500万人だという事実を踏まえると、Whartonでのアジア人の奮闘は目を見張るものがある。アジア人の勤勉さは決して侮ってはいけない。

となると、自然にこんな発想が僕の内から生まれてくる。

“Asia流MBAの創設”

これは、世界舞台に人材を多く輩出するそのアジアにそもそも最高の教育機関を作っては?そしてアメリカのように世界から人が集まる仕組み作っては?という発想だ。(無論、MBAが良いかどうかは議論があるところだが、以下はMBAを前提に議論を展開したい)。知る人も多いと思うが、実際、中国ではCeibsという学校が、アジアのグローバルリーダーの育成を目指して創設された。CeibsとはChina Europe International Business School(中欧国際工商学院)の略語で、現在アジアで最も注目をあびているビジネススクールだ。上記のMBA世界ランキングでも、近年破竹の勢いでランクを上げ、2009年では世界9位にまで上り詰めた。(ちなみに、日本でも慶応、早稲田、一橋、グロービスなどを通しMBAも少しずつ普及してきてはいるが、これらの学校が世界のトップ100に一校も入っていないように、日本のMBAは世界から全く相手にもされていない)。アジアで生まれたCeibsの世界でのプレゼンスの上昇は注目に値するが、果たしてCeibsが“アジアで生まれた”ことをどこまで強調できているのかは疑問が残る。これは、日本のビジネススクールにも言えることだが、基本的には多くのアジアのMBA schoolはアメリカのMBA schoolの真似をしているにすぎない。そこでは同じようなスタイルで、同じようなフレイムワークを学ぶ。ご存じ、MBAとはそもそもアメリカで生まれたeducation。後追い型のスタイルを続ける限り、本流のアメリカの大学のレベルを超えることはできないと思う。ではそうするか?そこで考えてみたいのが、以下で僕が提案する“Asia MBA”のschemeだ。

僕の提案するAsia MBAは以下の要素によって成り立っている。

第一に、低授業料を実現する。現在、アメリカのトップスクールのMBAは、授業料や教科書の費用だけでも2年間で1000~1300万円はする。そこに加えて、2年間の生活費で数百万円。更に、“働かない”という機会コストとして、同じく大きなコストがかかる。となると、MBAの2年間は総額で3000万円位の投資になると言っても決して過言ではない。卒業後、投資銀行に就職して大きなお金を稼ぐ人ならまだしも、一般人にそれだけの額を支払うことは決して簡単ではない。僕のスキームはこうだ。まず授業料に関して、AプランとBプランを作る。Aプランは従来通りの授業料を支払ってもらう。Bプランでは、授業料を徹底的に安くし、キャンパスに学生寮を建設するなどし、生活費の援助を徹底的に行う。そうすることにより、金銭的なハードルを一気に取り除く。そうすることにより、金銭的な問題がネックとなり踏み出せなかった多くの人材に新しい“機会”与えることができる。無論Bプランでは以下に説明されるように一つ条件が課される。

第二に、Asia MBAにより、アジアの企業と国、産業と政府を巻き込んだ、地域戦略的な教育機関を創設する。そして、資金に関しては、企業と国に十分に支援してもらう。もちろん、その支援母体は十分に精査される必要があることは言うまでもない。上記の続きだが、低授業料を実現するには、大学の運営のために、外部からの金銭的な支援が必ず必要になる。まして質の高い授業を実現するには、優れた教授陣あるいは研究機関が必要になる。となれば、そうしたコストも膨大な額にのぼるだろう。そこを企業と国に支援してもらうわけだ。ヨーロッパにはエアバスという航空機製造企業があるが、当企業は、産業と政府の支援を受け戦略的に誕生した。その意味で、エアバスのスキームは、僕のスキームに構造上は近い。上述の通り、Bプランを選択した学生は一つの条件を課されることになる。学生には卒業後アジア企業への就職を義務付ける。また、支援企業に対しては、優先的にドラフト会議の権利(人材を指名する権利)が与えられる。もちろんこれらのシステムに不服がある場合は、途中でもAプランに変更し全ての費用を独自に賄ってもらえば、それで話がつく。後腐れは一切ない。こうすることにより、莫大な費用がハードルになっていた多くの若者たちに、機会を提供することができると同時に、アジアからの人材の流出を防ぐことができる。

第三に、支援国家としては、第一弾として日本と中国と韓国が主導して学校をつくる。キャンパスは、それぞれの国に一つ作る。これは同じブランドでシンガポールとフランスにキャンパスをもつ世界のトップ校INSEADに構造は近い。無論授業は英語で展開される。学期は、2年で3学期制にする。つまり一学期は8ヶ月。そしてそれぞれの学期を日本、中国、韓国で過ごす。もともと寮生活を前提にしているので、移動コストはそこまで大きくはない。アジアMBAのコースの中にはアジア言語の習得を組み込む。学生たちは、ファイナンス、マネジメント、ストラテジーなどのコア科目と共に、それぞれの国の文化と現地の言語を学ぶ。授業には、常に生の題材を持ちこめるよう、アジアの多くの企業に情報やケースの題材を提供してもらう。日本ならトヨタ、韓国ならサムスン、中国ならシノペックなど。無論、他にもアジアには多くの企業が存在する。

僕のスキームでの最大の狙いは、学生の人材の流出防止と共に“アジアの連携”にある。学生たちが、アジアの国々のそれぞれの文化を学ぶことにより、結果として国家間の多くのしがらみを取り除くことができる。こんにち、アジアの国々、とりわけ中国、韓国、日本の間では過去の戦争の問題が前進への大きな障壁になっていることは周知の事実。“歴史は人が作る”というが、正にそれは本当で、それぞれの国は自国の論理に基づき戦争の問題を若者たちに教育している。結果として、それぞれの国が皆バラバラな発言をするようになり、もちろんそういった教育を受けた若者は、歴史に対して全く異なった見方をすることになる。読者の皆さんも経験したように、日本の教育では日本の軍国主義のことなどほとんど学ぶことはない。一方、中国では江澤民以降、過激な戦争教育が進められた。結果的に、戦後60年以上たったこんにちでも、多くの中国人が日本人は悪魔だと思っているのは事実。そしてこのことは韓国人が内心で日本人に対して思っていることと同じでもある。60年以上たって、しかもこれほどに地理的に近接している国々が、いつまでこのような愚かなことを続けるのだろ。今、アジアは前を見なければならない。戦後ヨーロッパが50年かけてEUを実現したように、アジアも前へと歩まなければならない。ただし、多くの力学が存在するこの問題は政治だけでは決して解決はしないだろう。それは、60年たった今でも解決しなかったこの事実そのものが解決の難しさを物語っている。では解決には何が必要か?

僕は、Asia MBAが解決の一つだと踏んでいる。Asia MBAと聞くと安く聞こえてしまうことは否定しないが、要は“教育”という観点からの解決だ。Asia MBAでは、日本人は、プログラムを通じて中国と韓国に行きそこで生活し現地の文化と言語を学ぶ。韓国人、中国人にも同様に日本のキャンパスに来て、日本の教育を日本で感じてもらう。無論、学生は中国人、韓国人、日本人以外にも、多くの国から募集する。更に、アジアMBAには、“アジアの前進”という授業を設ける。内容は、それぞれの国の歴史感を学びながらも、それだけでは感情論に突入するので、最後のチームプロジェクトでは、「60年も解決しなかった戦争問題を解決するためには、どういった手法がとられるべきか?」を課す。チームは必ず多国籍の編成にする。このようなシステムを設けることで、透明性の高い前向きな思考を学生たちに促すことができる。そして結果として、歴史への固執は無意味だということを学生たちに気づかせることができる。こんにち、ビジネス、歴史、多国籍を同時に組み入れたプログラムを実現している教育プログラムは僕の知る限り存在しない。まして、多くのMBAschoolは歴史のないアメリカ型のMBAを真似ているだけなら、歴史との融合が存在しないのは言うまでもないこと。

第四に、いずれはインドキャンパス、ベトナムキャンパスなどを併設する。そこでも上述と同じように、その国の言語と文化を学ぶことを学生たちに課す。学生たちは、ネットワークの中から3カ国を選択し、Asia MBAプログラムを受講する。学生たちには、アジアを一つとして考える機会を与える。そしてその連続は、卒業生の増加と伴いアジアの距離を確実に近くする。そして、偏ったナショナリズムを克服し、それぞれの文化と歴史を尊重できるグローバルリーダーたちがアジアに生まれることにより、そのアジアの岩盤は強化される。このことは、経済という軸をもって融合が実現されたEUとは一味も二味も異なる進化となる。Asia MBAは、教育という軸をもって国家間のつながりを強化するという新しい試みとなる。

1903年、岡倉天心はこう言っている。「やがてアジアは一つに」。それが実現に。

僕の構想は以上となる。随分と空想じみた話をしてしまったようだ。でも僕は利害関係の最も少ない“教育”というパイプを通じたアジアの協調こそが結果的に大きな飛躍を生むと確信している。アジアならではの悠久の歴史があるからこそ実現できる教育が必ずそこには存在する。そこから生まれる最高水準の教育は、やがて世界へと挑戦する。そしてその時、世界のリーダーたちはアジアの教育に目を向けることになる。その時、人才外流は終止符を打ち、人才流入(レンツァイリウルー)が始まる。

by ny_since1999 | 2009-04-16 11:01


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