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Wharton MBA 記  ~Carpe diem - 今を生きる~

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2008年 12月 12日

Working Poor

Working Poor_a0100263_11192732.jpgテストやプロジェクトに追われていたけれど、一冊の本を読むことができた。それは、友人から前々から勧められていた“ワーキングプア”という本。これはNHKから2007年に出版された本で、ご存じの方も多いかも知れない。

本の内容は、日本社会の陰で必死に生きる貧困層の人たちの話。その中でも、地方で生きる人たちの想像を絶する貧困生活が本の中で克明に描かれている。僕は、この本を読んで人一倍共感するところが多かった。なぜならば、僕の生まれ育った地も全く同じ状況にあるからだ。かつて、日本全国で実行された公共投資。田中角栄氏に率いられた日本列島改造計画により、我が故郷新潟が大きな恩恵を受けたことは言うまでもない。公共投資により潤う雇用は、地元住人に多く形で“幸せ”を提供してくれた。

あれから幾年の月日が過ぎ去った。財政に窮する国は公共投資の削減を加速的させた。日本の多くの大手民間企業は、低い賃金を求め、生産地を次々に海外に移した。その影響は都会にいるとわかりえないが、地方に行けば一目瞭然だ。今日、地方社会には高度経済成長期に活況を呈したかつてのあの輝きはもはや存在しない。需要のない世界に生きる中小零細企業。一日一日を生きるのがやっとの家計。皆、生きるのに必死なのだ。そういった環境下、所得の加速的な減少に直面している人々の数は決して少なくはない。この本の中にも詳しく書かれているけれど、地方に行くと、先祖から伝わる家や土地を所有している人が多い。そしてそこには大きな問題が潜んでいる。実は、そういった所謂“財産”を所有していると、法律上、生活保護を受けられないのである。先祖から代代受け継いだ財産を売るにも売れず、現状を維持。だからこそ、信じられないような低い給与で生活していかなければならない。そういった現実に、耐えられず、自殺する人々が急増している。

繰り返すが、僕は“究極”の田舎で育った。大地は、どこまでも緑に囲まれ、その先には1500M級の山が大地を見守るかの如く立ちはだかる。春夏秋冬の変化は鮮やか。春の薫風、夏の活きた緑、秋の紅葉、そして冬は白銀の世界。

僕が生まれたころは、今日のように中国製の安い農作物は日本には侵入していなかった。作る農作物は、気持ち良いほどに売れた。米の価格も守られ(現在でも守られているが)、農家は今では考えられないほど経済的に潤っていた。農業ができない冬は、地元を離れ出稼ぎに行く。高度経済成長は、全国のありとあらゆる場所に雇用機会を創造し、出稼ぎの“行先”には苦労はなかった。一家の大黒柱のお父さんが出稼ぎから持ち帰る収入と農業から生まれる収入で、大きな一家は何不自由なく生活ができた。以前、都心で育った僕の友人が僕にこんな興味深い一言をつぶやいた。“農家はお金持ちのイメージがある”。彼が言っていたことは、あながち間違いではない。 でもそれは、今は昔。もうあの栄光はそこには存在しない。専業農家は姿を消し、兼業農家も先の見えない生活を送っている。

思えば、僕の中学校時代の仲間たちは今頃何をしているのだろうか。ちなみに、僕の中学校時代の同級生は80人いた。その中で大学に進んだ人間は、およそ5名±。現在、日本の大学進学率は45.5%ほど(2006年)に対し、僕の地元の大学進学率はおよそ6%で一割にも満たない(もちろん大学進学率自体が生活の安定の尺度にはなりえないが)。僕の同級生のほとんどが中学卒業後、あるいは高校卒業後、皆地元に残り職に就いた。建設会社、旅館、スーパー。同じ時代を生きた僕の仲間たちは、今地元で精をだして働いている。

地元に帰ったときに、時々耳にするが、やはり職を継続して維持するのは難しいらしい。本人の問題か、会社の問題かは分りかねるが、彼らは・彼女らは頻繁に職を変えざるを得ず、結果的に何もせずに家にいるというパターンが決して少なくないと聞く。現実は、やはり甘くはない。

日本とは豊かな国だと思っている人は沢山いるのではないだろうか。もちろん、世界の貧困に苦しむ国に比べたら、“平均”して遥かに、否、世界最高水準の生活をおくっていることは言うまでもない。だが、上述の通り、日々を生きることが精いっぱいの人々も多く存在する。これは、見過ごしてはいけない現実なのだ。

僕は、今、アメリカという地で贅沢にも2年もの”学ぶ機会”を与えられている。入学以来、世界から集まった多くの若者たちと知り合った。それこそ、貧困の地から這い上がってきた人々と知りあうことができた。そんな彼ら・彼女らとのインターラクションの中で、僕が学んだことは数限りない。そしてその生活も残り25%。僕は、もうすぐ卒業する。僕にとって、この2年の経験を如何に現実社会に還元して行くかは真剣に考えなければならない重要な問題だ。

そんなことを考えさせられた一冊となった。

by ny_since1999 | 2008-12-12 08:18


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